機械設計をしていると、避けて通れないのがボルトの強度検討です。
引張、疲労、ゆるみ、そして「せん断力」。
特にせん断力については、
「ボルト径これで足りるかな…」
「本数増やした方が安全かな…」
「ダブルせん断?シングルせん断?」
と、考え始めるとキリがありません。
でも正直に言うと、私はある時から
「あ、そこまで難しく考えなくてもいいんだ」
と気づいて、かなり気が楽になりました。
ある日、設計レビューで詰まった話
少し前の案件で、こんな部品がありました。
モーターをブラケットに固定
横方向に力がかかる構造
M8ボルト4本で締結
材質はSS400同士
いわゆる「横力がかかる締結」です。
レビューで先輩からこう言われました。
「このボルト、せん断力の検討はしてる?」
正直、その時は
「うわ、面倒なやつ来た…」
と思いました(笑)
ボルトに直接せん断力がかかると考えると、
ボルトの許容せん断応力
断面積
安全率
と、ちゃんと計算しないといけない気がします。
でも先輩は、図面を見ながらこう言いました。
「これ、座面で滑らなければ、ボルトはせん断されないよね?」
ボルトは「せん断される前に、まず摩擦が働く」
ここが今回のポイントです。
ボルト締結部に横方向の力がかかると、
いきなりボルトがせん断される
…と思いがちですが、実際は違います。
実際の力の流れ
ボルトを締める
締付け力によって、部材同士が強く押し付けられる
その押し付け力 × 摩擦係数 = 摩擦力
横力は、まずこの摩擦力で受け止められる
つまり、
👉 摩擦力 > 横方向の外力
この関係が成り立っていれば、
部材は滑らず、ボルトにせん断力はほとんどかからない
ということです。
逆に言えば、部材が滑った時点で設計が悪いという事です。
「摩擦で滑らないか」を見るだけでいい理由
この考え方の良いところは、とにかくシンプルなことです。
必要なのはこれだけ
ボルトの締付け力
接触面の摩擦係数
外力(横方向の力)
せん断応力だの、断面二次モーメントだのは出てきません。
計算としては、
摩擦力 = 締付け力 × 摩擦係数
これが外力より大きければOK。
正直、レビュー資料としても説明しやすいです。
実際に計算してみたら、拍子抜けします。
先ほどのM8ボルトの例で、ざっくり計算してみました。
M8ボルト1本の締付け力:およそ10kN
ボルト本数:4本
→ 合計締付け力:40kN
摩擦係数(鉄×鉄):約0.15
摩擦力 = 40kN × 0.15 = 6kN
一方、モーターからの横力は約2kN。
👉 全然余裕あるじゃん…
これを見た瞬間、
「せん断計算で悩んでた時間、何だったんだろう」
と思いました。
「ボルトがせん断される」ケースって、実は少ない
もちろん、何でもかんでもこの考え方でOKではありません。
例えば、
締付け力が管理できない
振動が大きくて緩みやすい
接触面が樹脂や塗装面
意図的に位置決めピン代わりに使っている
こういう場合は、
摩擦に期待できない=せん断をちゃんと見る必要ありです。
でも逆に言うと、
金属同士
しっかり締結
通常の機械構造
であれば、
「まず滑らないか?」を見るだけで十分なケースが多いというのが、実感です。
個人的に、この考え方で変わったこと
この考え方を取り入れてから、
無駄にボルト径を上げなくなった
本数を増やしすぎなくなった
設計説明が楽になった
と、いいことばかりでした。
何より、
「せん断が怖いから、とりあえず太く・多く」
という設計の保険かけすぎが減りました。
結果的に、
軽量化
コストダウン
見た目もスッキリ
につながることも多かったです。
まとめ:まずは「滑らないか?」を見てみる
ボルトのせん断力というと、どうしても難しく考えがちですが、
「締結座面が摩擦で横滑りしないならOK」
「締結座面が摩擦で横滑りするならNG」
この視点を持つだけで、設計はかなりシンプルになります。
もちろん、条件次第で例外はありますが一度この考え方で見直してみると、
「あれ?これ、もうクリアしてるな」
という場面、きっとあると思います。
設計で悩んだら、
まずは“摩擦で持っているか?”
ぜひ一度、確認してみてください。